判決の分解  内縁関係  昭和33年4月11日 最判第二小法廷

 

論点

内縁不当破棄と不法行為

内縁に民法760条が適用されるか

 

判決

 

                 主    文      

 

本件上告を棄却する。      

上告費用は上告人の負担とする。

 

      理    由

 

 上告代理人野村均一、同大和田安春の上告理由第一、二点について。

 大審院は、いわゆる内縁を「将来ニ於テ適法ナル婚姻ヲ為スベキコトヲ目的トス ル契約」すなわち婚姻の予約であるとし、当事者の一方が正当の理由なく、約に違 反して婚姻をすることを拒絶した場合には、其の一方は相手方に対し、婚姻予約不 履行による損害賠償の義務を負う旨判示し(大審院大正二年(オ)第六二一号、同 四年一月二六日民事連合部判決、民事判決録四九頁)、爾来裁判所は、内縁を不当 に破棄した者の責任を婚姻予約不履行の理論によつて処理し来り、当裁判所におい ても、この理論を踏襲した判例の存することは、論旨の指摘するとおりである。

 ところで、いわゆる内縁は、婚姻の届出を欠くがゆえに、法律上の婚姻というこ とはできないが、男女が相協力して夫婦としての生活を営む結合であるという点に おいては、婚姻関係と異るものではなく、これを婚姻に準ずる関係というを妨げな い。そして民法七〇九条にいう「権利」は、厳密な意味で権利と云えなくても、法 律上保護せらるべき利益があれば足りるとされるのであり(大審院大正一四年(オ) 第六二五号、同年一一月二八日判決、民事判例集四巻六七〇頁、昭和六年(オ)第 二七七一号、同七年一〇月六日判決、民事判例集一一巻二〇二三頁参照)、内縁も 保護せられるべき生活関係に外ならないのであるから、内縁が正当の理由なく破棄 された場合には、故意又は過失により権利が侵害されたものとして、不法行為の責 任を肯定することができるのである。されば、内縁を不当に破棄された者は、相手 方に対し婚姻予約の不履行を理由として損害賠償を求めることができるとともに、 不法行為を理由として損害賠償を求めることもできるものといわなければならない。

本件において、原審は、、上告人の行為は所論の如く不法行為を構成するものと認 めたものであるが、上記説明に徴すれば、これをもつて違法とすることはできない。 論旨は採るをえない。

 同第三点について。  本件当事者間の内縁関係は昭和二八年三月二一日上告人の一方的意思によつて破 棄されたこと、被上告人は上告人と別居するにいたつた昭和二七年六月二日から昭 和二八年三月三一日までの間に、自己の医療費として合計二一四、一三〇円を支出 したことは、いずれも原審の確定したところである。そして、内縁が法律上の婚姻 に準ずる関係と認むべきであること前記説明の如くである以上、民法七六〇条の規 定は、内縁に準用されるものと解すべきであり、従つて、前記被上告人の支出した 医療費は、別居中に生じたものであるけれども、なお、婚姻から生ずる費用に準じ、 同条の趣旨に従い、上告人においてこれを分担すべきものといわなければならない。 そして、原判文の全趣旨に照らすと、原審は、本件当事者間における一切の事情を 考慮した上、本件内縁関係が破棄せられるまでの間に、被上告人の支出した医療費 のうち金二〇〇、〇〇〇円を上告人において分担すべきものと判断したことを肯認 することができるのであつて、原判決には所論の如き理由そごの違法はなく、所論 は採るをえない。  よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと おり判決する。    

 

1.内縁の定義 

 

大陪審「いわゆる内縁を『将来ニ於テ適法ナル婚姻ヲ為スベキコトヲ目的トスル契約』すなはち婚姻の予約である」と定義。

 

当判決「いわゆる内縁は、婚姻の届出を欠くがゆえに、法律上の婚姻ということはできない」

 

2.法律上の効果

 

大陪審

 

「当事者の一方が正当の理由なく、約に違 反して婚姻をすることを拒絶した場合には、其の一方は相手方に対し、婚姻予約不 履行による損害賠償の義務を負う旨判示、爾来裁判所は、内縁を不当 に破棄した者の責任を婚姻予約不履行の理論によって処理し来り、当裁判所においても、この理論を踏襲した判例の存することは、論旨の指摘するとおりである。」

 

当判決

 

「男女が相協力して夫婦としての生活を営む結合であるという点に おいては、婚姻関係と異るものではなく、これを婚姻に準ずる関係というを妨げな い。そして民法七〇九条にいう「権利」は、厳密な意味で権利と云えなくても、法 律上保護せらるべき利益があれば足りるとされるのであり、内縁も 保護せられるべき生活関係に外ならないのであるから、内縁が正当の理由なく破棄 された場合には、故意又は過失により権利が侵害されたものとして、不法行為の責 任を肯定することができるのである。されば、内縁を不当に破棄された者は、相手 方に対し婚姻予約の不履行を理由として損害賠償を求めることができるとともに、 不法行為を理由として損害賠償を求めることもできるものといわなければならない。」

 

判断

 

本件当事者間の内縁関係は昭和二八年三月二一日上告人の一方的意思によって破棄されたこと、被上告人は上告人と別居するにいたった昭和二七年六月二日から昭 和二八年三月三一日までの間に、自己の医療費として合計二一四、一三〇円を支出 したことは、いずれも原審の確定したところである。そして、内縁が法律上の婚姻 に準ずる関係と認むべきであること前記説明の如くである以上、民法七六〇条の規定は、内縁に準用されるものと解すべきであり、従って、前記被上告人の支出した 医療費は、別居中に生じたものであるけれども、なお、婚姻から生ずる費用に準じ、 同条の趣旨に従い、上告人においてこれを分担すべきものといわなければならない。 そして、原判文の全趣旨に照らすと、原審は、本件当事者間における一切の事情を 考慮した上、本件内縁関係が破棄せられるまでの間に、被上告人の支出した医療費 のうち金二〇〇、〇〇〇円を上告人において分担すべきものと判断したことを肯認 することができるのであって、原判決には所論の如き理由そごの違法はなく、所論 は採るをえない。  

 

 

(不法行為による損害賠償)

第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

(婚姻費用の分担)

第七百六十条 夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。