判決の分解 (大陪審 大正15年7月20日 第一刑事部決定)

 

貞操義務

 

事案の概要

妻子ある男性と不倫関係にあった女性に、その妻の母親に頼まれて、男性と不倫関係にあった女性を、恐喝した被告に対する裁判。

 

判決要旨

 

「夫婦カ相互ニ貞操義務ヲ負フハ其ノ共同生活ノ必要条件ニシテ夫ハ當然婦ニ對シテ貞操義務ヲ負フモノトス」  旧かな

「夫婦が相互に貞操義務を負うはその共同生活の必要条件にして夫は当然婦に対して貞操義務を負うものとす」  新かな

 

判決  新かな で 表記する

 

婚姻は夫婦の共同生活を目的とするものなれば配偶者は互いに協力してその共同生活の平和安全及び幸福の保持せざるべからず然り而して夫婦は相互に誠実を守ることはその共同生活の平和安全及び幸福を保つの必要条件なるをもって配偶者は婚姻契約により互いに誠実を守る義務を負うものというべく配偶者の一方が不誠実なる行動をなし共同生活の平和安全及び幸福を害するはすなはち婚姻契約によりて負拠したる義務に違背するものにして他方の権利を侵害するものと言わざるべからず換言すれば夫に対し貞操を守る義務あるは勿論夫もまた婦に対しその義務を有せざるべからず民法第813条第3項は夫の姦通をもって婦に対する離婚の原因となさず刑法第183条3項もまた男子の姦通を処罰せずと雖もこれは主として古来の因襲に胚胎する特殊な立法政策に属する規定にしてこれあるが為に婦が民法上夫に対して貞操義務を要求するのを防とならさるなり本被告事件に付き原判決の確定したる事実は上告趣意書に摘録するごとし然るに原判決は和田乙女はその夫和田丙に対し貞操義務を強要する権利なきものと説示したる所論のごとくは夫の貞操義務に関しその解釈を誤りたるものいわざるべからず」

 

婚姻の目的

婚姻は夫婦の共同生活を目的とするもの」

婚姻の法的性格

配偶者は婚姻契約により互いに誠実を守る義務を負うもの

婚姻の意義

配偶者は互いに協力してその共同生活の平和安全及び幸福の保持をする。

婚姻の継続要件(必要要件)

 夫婦は相互に誠実を守ること

 

不貞行為→ 婚姻契約の義務違反(不誠実) → 共同生活の平和安全及び幸福を害する

 

他方の権利侵害

 

「換言すれば夫に対し貞操を守る義務あるは勿論夫もまた婦に対しその義務を有せざるべからず」

 

夫 ⇔ 婦(妻) 夫の貞操義務はないか?

    民法813条第3項 刑法183条第3項

  → 「これは主として古来の因襲に胚胎する特殊な立法政策に属する規定」

  ⇔ 貞操義務あり

 

(条文)

 

旧民法 813条

夫婦ノ一方ハ左ノ場合ニ限リ離婚ノ訴ヲ提起スルコトヲ得

 

  二 妻カ姦通ヲ為シタルトキ

  三 夫カ姦通罪ニ因リテ刑ニ処セラレタルトキ

 

旧刑法 183条

有夫ノ婦姦通シタルトキハ二年以下ノ懲役ニ處ス其相姦シタル者亦同シ (夫のある女性が姦通したときは2年以下の懲役に処す。その女性と相姦した者も  

同じ刑に処する。)

前項ノ罪ハ本夫ノ告訴ヲ待テ之ヲ論ス但本夫姦通ヲ縱容シタルトキハ告訴ノ效ナシ

(前項の罪は夫の告訴がなければ訴訟を提起することができない。ただし、夫自ら姦通を認めていた時は、告訴は効力を有しない。)