判決の分解(最高裁 昭和58年12月6日 第三小法廷判決)判例時報1106号61‐70頁

 

退職(給与)の意義  10年退職の場合

 

事案の概要

X会社(原告・被控訴人・被上告人)は、鉱石ラジオの製造販売等を業とする株式会社であるが、昭和40年11月に会社更生手続開始決定を受け、それを契機に、労組双方の合意に基づき、勤続10年停年制を実施することとした。これは、従業員側は倒産を憂慮して退職金の安全確保を、使用者側は退職金支給の負担の分散を、それぞれ目途としたものであった。かくして、X会社は、まず昭和43年10月21日実施の退職金規定に右定年制を盛り込み、次いで同45年11月16日に就業規則を改正し、その28条に「従業員の停年は満55歳とする。又は、勤続10年に達したもの。ただし、停年に達したものでも業務上の必要がある場合、会社は本人の能力、成績、及び健康状態などを勘案して選考の上、あらたに採用することがある。」と、規定した。

そして、X会社は、昭和44年3月より、勤続10年に達した従業員に対し、右規定に基づき順次退職金を支給したが、Y税務署長(被告・控訴人・上告人)は、本件退職金は給与所得に当たるとして、源泉所得の納税通知処分をした。X会社は、右処分を不服として本訴を提起した。

 

判決

 

退職所得に対する優遇課税(所得税法30条1項)についての立法趣旨

 

「所得税法が、退職所得を『退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与』に係る所得をいうものとし(30条1項)、これにつき所得税の課税上他の給与所得と異なる優遇措置を講じているのは」

 

一般に、退職手当等の名義で退職を原因として一時に支給される金員は、その内容において

<性質>

「退職者が長期間特定の事業所等において勤務してきたことに対する報奨」

及び

「右期間中の就労に対する対価の一部分の累積たる性質を持つ」

とともに、

<機能>

その機能において

「受給者の退職後の生活を保障し」

「多くの場合、所謂老後の生活の糧」となるものであるため

 

「他の一般の給与所得と同様に一律に累進税率による課税の対象とし、一時に高額の所得税を課することとしたのでは」

 

「公正を欠き」かつ

「社会政策的にも妥当でない結果を生ずることになることから」

 

かかる結果を避ける趣旨にでたものと解される」のであって

 

「その名称にかかわりなく、退職所得の意義について規定した同法30条1項の規定の文理及び右に述べた退職所得に対する優遇課税についての立法趣旨に照らし、これを決するのが相当である。」

 

要件

 

ある金員が、右規定にいう

*「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」にあたるというためには

要件

  1. 退職すなはち勤務関係の終了という事実によって初めて支給されること
  2. 従来の継続的な勤務に対する報奨ないしその間の労務の対価の一部の後払いの性質を有すること
  3. 一時金として支払われること

 

*「これらの性質を有する給与」に当たるためには

 要件

「それが、形式的には右の要件すべてを備えていなくとも

実質的にみてこれらの要件の要求するところに適合」すると

 

⇒ 課税上 「退職により一時に受ける給与」と同一に取り扱うことを相当とする

 

判断

 

「従業員の勤務関係が外形的には右定年制にいう定年の前後を通じて継続しているとみられる場合に」 これを

⇒「勤続満10年に達した時点で従業員は定年により退職したものであり」

 「その後の継続的勤務は再雇用契約によるものであるとみるのは、困難である

 

このような場合その勤務関係が (中略) 終了したものであるとみうるためには、

 

⇒「右制度の客観的な運用として、従業員が勤続満10年に達したときは退職するのを原則的取扱いとしていること」

⇒「および、現に存続している勤務関係が単なる従前の勤務関係の延長ではなく新たな雇用契約に基づくものであるという実質を有するものであること等をうかがわせるような特段の事情が存することを必要とするものといわなければならない。」

 

 

原審の確定した事実関係から

⇒「本件係争の退職金名義の金員支給を受けた従業員らが勤続満10年に達した時点で退職しその勤務関係が終了したものとみることはできないといわなければならない」

そうすると

⇒「右金員は、名称はともかく、その実質は、勤務の継続中に受ける金員の性質を有するものいうほかないのであって」

⇒「所得税法30条1項にいう『退職所得、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与』にあたるための3つの要件のうち『退職すなわち勤務期間の終了という事実によってはじめて給付されること』の要件を欠く」

 

 

継続的な勤務の中途で支給される退職金名義の金員が、実質的に見て右の三つの要件の要求するところに適合し、課税上、右「退職により一時受ける給与」を同一に取り扱うことを相当とするものとして、右規定にいう「これらの性質を有する給与」にあたるためには

 

⇒「当該金員が定年延長又は退職年金制度の採用等の合理的な理由による退職金支給の実

質的改変により精算の必要があって、支給されるもの」

⇒「当該勤務関係の性質、内容、労働条件等において重大な変動があって、形式的には継続してる勤務関係が実質的には単なる従前の勤務関係とみられないなどの特別の事実関係があることを要するもの」と解すべき。

 

⇒「原審の確定した前記事実関係にもとにおいては、(中略)本件金員が「退職により一時に受ける給与」の性質を有する給与に該当」しない。

 

 

 

 

(退職所得)

第三十条  退職所得とは、退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与(以下この条において「退職手当等」という。)に係る所得をいう。

 退職所得の金額は、その年中の退職手当等の収入金額から退職所得控除額を控除した残額の二分の一に相当する金額(当該退職手当等が特定役員退職手当等である場合には、退職手当等の収入金額から退職所得控除額を控除した残額に相当する金額)とする。

 前項に規定する退職所得控除額は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額とする。

 政令で定める勤続年数(以下この項及び第六項において「勤続年数」という。)が二十年以下である場合 四十万円に当該勤続年数を乗じて計算した金額

 勤続年数が二十年を超える場合 八百万円と七十万円に当該勤続年数から二十年を控除した年数を乗じて計算した金額との合計額

 第二項に規定する特定役員退職手当等とは、退職手当等のうち、役員等(次に掲げる者をいう。)としての政令で定める勤続年数(以下この項及び第六項において「役員等勤続年数」という。)が五年以下である者が、退職手当等の支払をする者から当該役員等勤続年数に対応する退職手当等として支払を受けるものをいう。

 法人税法第二条第十五号 (定義)に規定する役員

 国会議員及び地方公共団体の議会の議員

 国家公務員及び地方公務員

 次の各号に掲げる場合に該当するときは、第二項に規定する退職所得控除額は、第三項の規定にかかわらず、当該各号に定める金額とする。

 その年の前年以前に他の退職手当等の支払を受けている場合で政令で定める場合 第三項の規定により計算した金額から、当該他の退職手当等につき政令で定めるところにより同項の規定に準じて計算した金額を控除した金額

 第三項及び前号の規定により計算した金額が八十万円に満たない場合(次号に該当する場合を除く。) 八十万円

 障害者になつたことに直接基因して退職したと認められる場合で政令で定める場合 第三項及び第一号の規定により計算した金額(当該金額が八十万円に満たない場合には、八十万円)に百万円を加算した金額

 その年中に第四項に規定する特定役員退職手当等と特定役員退職手当等以外の退職手当等があり、当該特定役員退職手当等に係る役員等勤続年数と特定役員退職手当等以外の退職手当等に係る勤続年数の重複している期間がある場合の退職所得の金額の計算については、政令で定める。